伸筋と屈筋

筋肉の使い分け

伸筋と屈筋

人間の骨格を形成している筋肉は400以上ある。それぞれの筋肉には分担できるシェアがある。それを越えた時、その動きを他の筋肉に連動させ、あるいは共に動く事ができるようになっている。連動を作り出すのは膠原繊維という筋肉繊維だ。膠原繊維は筋肉の外側に糸状に配置されていて他の筋肉につながっている。その糸が擬妙な動きを作り出す。

任意の部位を目的に沿って動かす時、主に働く筋肉を主動筋という。

腱という筋肉もある。腱は体を自由に動かす為にあるもので、操り人形の糸と考えると解りやすいであろう。そして腱の動きを助ける為に筋肉がある。その筋肉の中には互いに方向を逆にし拮抗する屈筋と伸筋がある。

伸筋とは、機能による骨格筋の分類の一つで、その収縮により、関節を進展させる筋肉。屈筋は、伸筋に拮抗する筋肉で、骨格の屈曲をつくる筋肉である。

人間の体の一部を、ある方向に動かしたとき、動かした筋肉では元に戻す事は難しい。小さな動きの場合は収縮した筋肉が弛緩することで元に戻るが、それには時間がかかる。通常、元に戻すにはその動きに拮抗する筋肉が使われる。人の全ての動きにこの筋肉の使い分けがなされている。

しかし一般的には、意識をせずに行われている動きだ。「俺は筋肉を使い分けているよ」という話は聞かない。ほとんどの人は屈筋と伸筋を同時に使用している。実はそれが筋肉に負荷を掛け、固め「コリ」を作っていく。

例えば、前腕を内旋させるには屈筋が働き屈曲する。外旋をさせるには伸筋が使われる。言葉では簡単に説明できるのだが、ここに問題がある。

筋肉には随意筋と付随意筋がある。随意筋とはその語彙の意味の通り随意に動かせる筋肉である。不随意筋はその逆である。(この二つの筋肉については他で詳しく述べているのでここでは割愛する。)

通常、人は意識して筋肉を使ってはいない。何故なら、脳には優秀なソフトがインストールされていて、いちいち意識しなくても使えるからだ。でもその脳はまだ初心者。一般仕様のプログラミングしか入っていない。筋肉を分けて使う事などの高級仕様は、これからインプットするしかないのだ。だから現時点では主動筋と拮抗筋を同時に使う事になっていてもしょうがない。それを筋肉単位に別々に使える様な高級仕様にアップグレードしていこう。

人はいろいろな動きをする。その動きを作る際に、最初は面倒でも、この様な動きをするときにはこの筋肉が主動筋。と意識して筋肉に命令していく。それを繰り返していくと、運動神経や小脳がデリケートな動きを加味し、その動きを筋肉自身が覚えていく。更にそれを訓練付ければ自然と動作にふさわしい主動筋を使える様になる。筋肉使用のソフトがアップグレードされた訳だ。但しここで間違った筋肉の使い方を筋肉に覚えさせたら大変な事になる。思いこみで筋肉の使い分けをしないように注意を促したい。

前述の例でいえば、前腕を内旋させる場合、意識して屈筋のみを使い。元に戻すときは伸筋を意識して使う事だ。

ある時に気付いた。人はあらゆる動きをする時、同時に相反する筋肉を使っている。私の発見である。

特に腕相撲をする時は顕著である。勝とうとすると力を込める。最初のこの行為が相反させる筋肉を同時に使うことになる。前腕の内側の屈筋は屈曲させる為に使う筋肉。外側の伸筋は外旋させる筋肉である。それを同時に使ってしまうのだ。

その時どのような作用が働くか?曲げたいのに、伸ばす筋肉が曲げさせないように働いているという事である。車を前進させたい時に、アクセルだけではなくブレーキを踏んでいる。これは明らかに力の無駄使い。エネルギーの損失である。それを内旋する際、屈筋を意識して使い、伸筋を使わない様にすると、無駄なエネルギーを使わず楽に動かす事が出来る。力の無駄使いがなくなる。

腕相撲でも強い相手に接する時に、通常力を込めてしまう。その結果更に屈筋と伸筋を同時に使う事になる。それを意識して屈筋のみ使用するように対すれば思い掛けない勝利を得る事ができるだろう。

そしてより強くなるには、有効に筋肉を使うことだ。それは段階的に筋肉を使う事である。それを筋肉の連動と名付けている。一遍に前腕の屈筋全部を使うのではなく、肘側から徐々に筋肉を使うことだ。それを覚えると想像を超えたパワーを発揮する事ができるようになる。しかしこの連動という筋肉の使い方は握った手の方からは使えない。

意識して屈筋を使うのと何の意識もせずに単に内旋させた時とでは数倍の力の差がでてくる。

この筋肉の使い分けが出来るようになると、1対2の腕相撲も楽に出来るようになる。私は1対4でやっている。(増やしてもよいのだが人が重なって持つところがない。)そして両手で持たせる。つまり1本対8本の腕相撲である。それでも充分に勝ちを収める事が出来る。

能くその道のトップにいる人や名人達人たちが「力を抜いて」と言う。それは力を抜くことによって目的の動作に主動筋を使う事が出来る事を体感的に理解したからではないかと推測できる。

全ての動きを作る場合、その動きにあった筋肉がある。それを意識して使うことがベストなのである。

ピアノを弾く時、鍵盤を押すときには掌側の屈筋を使用し、鍵盤から離す時には手の甲側の伸筋を使えば良い訳である。しかし「早く動かさなくてはいけないのに、そんなの意識して使えるはずがないではないか」と異論がでるだろう。でもこれで終わったら高級仕様の車に貴方は乗れない。スタンダードな車に乗るしかない。またその先、先人を越すことはできないだろう。指の腹で押すときには屈筋。持ち上げるときは伸筋と意識しながら、ゆっくりと動かしこれを訓練付けしていく。そしてそれを徐々にスピードをあげて動かしていく。これを充分に訓練していくと、今度は意識しなくても使える様になってくる。つまり筋肉がその動きを記憶していくのだ。こうすることで筋肉の使用のソフトがアップグレードされた訳だ。

全ての動きを作る場合、その動きにあった主の筋肉があると述べたが、その主動筋を一つと考えては早計だ。それでは主動筋を制された時動きがとれなくなる。副主動筋なるものがある。別の位置から違う筋肉を使う。そしてそれを連動して動かしていく。色々な使い方が出来るのである。

太極拳はゆっくりした動作である。そのゆっくりと動きの中に筋肉の様々な動きが隠されている。だからゆっくりとした動作なのだ。しかし太極拳は格闘技。あのゆっくりと動きを一瞬の内に使う事の為に練習をしているのだ。ゆっくり練習しないと筋肉の微妙な使い方と連動を作り出せないからだ。そしてそれを訓練付けていくと一瞬の内に発揮出来るようになるのだ。

私の気功法の中には、筋肉の使い分けと連動の仕方が含まれている。是非体験していただきたい。