第1章 筋肉の成り立ち
身体を形つくっているのは筋肉です。そして身体を自在に動かすことができるのも筋肉のおかげです。ではその筋肉がどのようなもので、どんな働きをしているのでしょうか?
筋肉のしくみ
人間の骨格をなしている筋肉を骨格筋といいます。いろいろな動きをつくっていくのは骨格筋です。骨格筋は多数の細長い筋繊維からできています。筋繊維は一つの筋細胞ですが、細いもので0.05㎜。太いもので0.1mm。長さは0.1㎜から20㎝以上で、肉眼で見ると糸状に見えます。表面には縞模様(横紋)になっています。横紋筋とも言います。
この筋繊維が収縮、弛緩していろいろな動きをつくっていきます。 現在、信頼性の置ける理論として、クロス・ブリッジ説というのがあります。最初にその理論をできるだけ判りやすく紹介していきます。
クロス・ブリッジ説
そのしくみは、脳が、あるいは反射神経が、「動かせ」と動かそうとする筋肉に、神経を通じて命令を送ります。
シナプスを通して筋肉の中にある神経がそれを受信し、インパレス(信号)が神経筋接合部を興奮させます。筋小胞体は筋フィラメントを囲む液状部分にカルシュームを放出し、これによって分子反応が起き、アクチン・フィラメントから突き出ている「頭部」を引き付けます。ミオシン・フィラメントはアクチン・フィラメントとの間にクロス・ブリッジ(連結橋)を形成し、自らアクチン・フィラメントに結びつけます。ミオシン・フィラメントは屈曲(回転)し、アクチン・フィラメントを筋節中央へ引きずり込み、両フィラメントはより深く重なり合います。これは筋節に短縮を起こし、多数の筋繊維の筋節がいっせいに短縮するために筋収縮が起き、このときに筋組織は四十%ちかく短縮されます。しかし。短縮したら、もう力を出すことが出来ません。(重要)
神経からのインパレス(信号)が止むと、カルシュウムは横行小管に収納され、ミオシン頭部はアクチンを離れ、収縮が止みます。
しかし筋肉は自力で伸びることが出来ません。筋収縮の単位である、筋節は、重力あるいは対立する筋、対立筋といった外力によって長くなり、元の位置に戻ることが出来ます。そして筋肉は弛緩すれば、再び短縮が可能となります。つまり力を出すことが出来るのです。
以上が、クロス・ブリッジ説と言われるもので、私自身も、現在納得の出来る理論であると思っています。
筋肉の構造をさらに詳しく学んでいきましょう。
筋肉の構造と機能
筋肉を便宜上、一つの筋肉のように扱う、例えば、二頭筋や三角筋というように、しかし神経筋系が、他のものとは無関係に単独に筋肉を動かしているわけではありません。
神経系はある動きを生じさせるために、収縮組織の一部に収縮するように刺激を伝えます。そして通常、複数の筋肉が強調して、収縮反応をおこなわれます。どのような動きでも、全筋肉が関与することはなく、また一つの筋肉だけで、動きが起こることもありません。
腕を動かすときでも、上腕二頭筋が肘を曲げます。腕の位置によっても違うが、上腕二頭筋の決まった部分が活性され、収縮されますが、さらに上腕筋や前腕筋の筋肉が収縮し、三頭筋はその動きを滑らかにするように、動きます。
また腕を上げたときに重心の移動が行われれば、腹筋や脚の筋肉にも影響していきます。身体の動きを生み出すのは、個々の筋肉というよりも、一部の筋組織が記憶しているパターンとして動くと解釈するべきであると考えます。
言い換えれば、筋組織の記憶しているパターンを訓練によって変えていけば、腕を動かす時に腕の筋肉を使わずに動かすことも出来るということになります。
筋細胞
○筋肉の仕事をする収縮フィラメントは筋フィラメントと呼ばれます。
○二種類の筋フィラメントが筋肉の仕事をこなします。
○太いフィラメントはミオシン、細いフィラメントはアクチンといいます。
○ミオシン・フィラメントは分子(頭部)を持っています。この頭部はアクチン・フィラメント上にある吸着部位へと突き出ていて、筋収縮を引き起こします。
○ミオシンとアクチンは平行して並び、端の方は重なっています。このようなフィラメントが骨格筋に特徴的な縞模様をつくっています。横紋筋と言われる由縁です。
○両フィラメントがいくつか集まって筋節を形成しています。筋節は筋細胞に於ける収縮の単位と考えられます。
○筋節が紐状につながったものが筋原繊維といいます。
○筋原繊維を取り囲み、入り込んでいるのが、横行小管、筋小胞体いわれる、小さなもので、顕微鏡でしか見ることが出来ません。ここからカルシュームが放出されて筋肉が動くのです。
筋細胞と筋繊維
筋細胞と筋繊維は同義で、身体の筋細胞は変化しないと考えられています。トレーニングして筋肉を発達させても、サイズや量を増やすことで、それは筋細胞の収縮体積で筋細胞の数が増える訳ではありません。
細胞の核
細胞には通常一個の核があります。筋細胞には軸に沿って、多数の核があります。
筋肉はいろいろな動きを要求されます。その動きに対応するにはいろいろな筋細胞があって、核も多く存在するのです。長いものは二八センチメートルを超えるものもあるようです。
神経筋接合部
神経系と筋肉系が接続している部分を神経筋接合部といいます。
運動神経細胞と筋肉の間にシナプスが存在します。シナプスとは神経細胞同士が化学的につながって情報を伝達する部分をいいます。
身体は筋肉で覆われています。その領域は広く、その場所その場所の筋肉の機能も多様であるために、多数のニューロンから出来ている神経は、筋肉の様々な場所を刺激することが出来ます。
神経は筋肉の様々な場所に、神経終末、つまり神経筋接合部を持っていて、一つのニューロンから信号を受け取ります。ニューロン自体は多数の筋繊維に信号を伝達することができます。
運動単位
「動け」と命じたときに、あるニューロンとそのニューロンが支配する筋繊維群を運動単位と呼びます。運動ニューロンは軸索側枝を伸ばし、それぞれの筋繊維とつながっています。
各筋繊維は神経筋接合部を一つ持っていて、接合部は各筋繊維のほぼ中央にあります。そしてその場所に軸索終末が集まっています。この神経接合部で「収縮せよ」といったインパレスが神経系から筋肉へ伝達されます。
筋肉の束
筋肉はそれぞれ筋肉の束(筋繊維束)からなっています。筋繊維は小束ですが、たくさん集まって大きな束となります。
筋繊維束はそれぞれが結合組織、つまり筋膜で包まれて、他の束から分離されています。
ここまでの学習で理解できたものと思いますが、手を動かそうと思ったときに、脳から神経を通して、命令が伝達されます。直接手を動かすための筋肉だけではなく、その動きに関連する、全ての筋肉に情報が伝達されます。
細かい動きをする場合には、各筋繊維束にそれぞれ微妙に違う情報の伝達が届き、筋肉が収縮していきます。筋肉を常に柔らかい状態にあるときには、素直にこの情報が伝わり、動きに変化しますが、硬く固まった、あるいはコリをもった筋肉の筋繊維束には情報が届かず、ぎごちない動きとなります。
しなやかな手の動きをつくるのには、筋繊維束それぞれが柔らかくなくてはいけない理由が分かると思います。そして小脳の働きが関わってきます。この働きによって、訓練すれば動きが巧みに変っていくものなのです。
筋の形状
○筋の形状は、力生成軸と筋繊維の配列である。
○筋繊維の配列はひとつの筋肉全体や一部部の運動の機能をつくっている。
○筋肉の繊維の方向は、筋肉の力を出す方向に力を発揮する。というような筋肉の形状上の成り立ちがあります。
以下はクリニカルマッサージの資料を基に書いていきます。
筋肉の形状を下記のように現していきます。
■羽状
半羽状 筋繊維は力生成軸に単一角度をなして付着している。
羽 状 筋繊維は力生成軸に2つの角度をなして付着している。
多羽状 筋繊維は力生成軸に3つの角度をなして付着している。
■ 平行状 筋繊維は力生成軸に対して平行に付着する。
■ 収束状 複数の付着点をもち、広い部分から、狭くなり一点に付着する。
* クリニカルマッサージ
株式会社 医道の日本社
筋膜
○筋膜は(fascia)といい、帯状のもの、あるいは巻くものを意味するラテン語から由来しています。
○筋膜は身体の隅々まで広がっている組織で、筋膜は身体のどこにも存在します。
○筋膜は内外の諸器官を作るだけではなく、循環系、神経系、リンパ系といったからだ全体のシステムの土台となっているのです。
○骨格が、身体全体大まかな形をつくりますが、筋膜は柔らかい部分の全体の形を成しています。
○筋膜は一種の結合組織で、他の筋細胞とくっつくときに働く機能を持っているのです。
○結合組織はほかには、腱、靭帯、腱膜、瘢痕(はんこん)組織(かさぶた)といったものがあります。
○筋膜は場所によって呼び方が変ります。脳や脊髄の周りを覆う場合、髄膜、骨の周りの筋膜は骨膜、心臓の周りは心膜、腹腔の内膜は腹膜と変ります。
筋膜の役割
筋膜は以下のような働きや、役目を持っています。
① 筋肉の形を形成し保持する。身体を構成している部分に形を作り、それらを定位置に保つ。
② 強固に力を入れることによって筋肉の強度を増加させる。筋膜が無いと筋肉は著しく弱くなる。
③ 形をつくる目安となり、次に同じような形をつくることができる。骨が骨膜などを失った場合、障害を回復するには時間が掛かります。
④ 筋膜はそれらの目的にあったものを包み他と区分する。筋膜は体液を包んでいる。また病気の感染などの広がりを抑えている。
⑤ 筋膜は、循環系やリンパ系の毛細管や脈管を支え、全身に分岐する神経も支える。
⑥ 新しい結合組織を産生する。腱や靭帯を正常化し、かさぶたを作る。
筋膜はその作られている組織をしっかりと囲んでいます。また分かれている組織同士をくっつけてさらに大きな力や、動きに対応していきますが、大きなストレスや、力をだしたり、長時間、同じような姿勢をしたり、仕事をしたときに、筋膜同士がくっついて離れなくなってしまいます。つまり癒着してしまいます。これが「コリ」の始まりです。
もう一つ考えられるのは、神経からのインパレス(信号)が止むと、カルシュウムは横行小管に収納され、ミオシン頭部はアクチンを離れ、収縮が止むというのは、普通の状態ですが、同じ動きを長時間続けたり、極度に力を入れたりすると、ミオシン頭部がアクチンを離れなくなり、収縮の状態のままになり、やがてそれが「コリ」になり、そこに新しい働きを加えた場合、普通の状態からつくったものより、強い「コリ」が出来上がるのでないかという仮説をもっています。「コリ」の中に、粒粒の豆状のものができるのは、このミオシン頭部の凸部ではないかと思います。
コリが更に進むと、軟骨のような状態になりますつまり骨化していきます。
「コリ」がつくられると、それらの筋繊維には、血液が送れなくなります。筋繊維束の表面の筋周膜が固まることによって、筋繊維の表面にある、毛細血管を圧しつぶし、この毛細血管に血液が流れなくなります。また神経も筋繊維に正しい情報が伝達されなくなります。血液が流れなくなれば、横行小管からのカルシュームの分泌にも影響し、動きが悪くなってきます。更に悪化すれば、動くことが出来なくなります。
細胞は再生される
あらゆる細胞が、修復され、古くなれば再生されていきます。その役目をしているのが、血液です。赤血球は概ね、細胞にブドウ糖である栄養とそれを燃やすための酸素を送り込みます。そしてそれがエネルギーとなります。
白血球は細胞の修復や再生あるいは、病気から守り抜く免疫力を運びます。それが筋膜同士の癒着つくり、血液の流れを阻害すれば、全てが狂い、病気を作り、またいろいろな障害を作り上げます。
筋膜は人間の身体に無くてはならないものです。しかし目的とは別に、不都合に働いてしまうのも事実です。
皮膚組織
皮膚の組織について説明していきます。
皮膚は外側に表皮があり、ついで真皮があり、その下に皮下組織があります。さらにその下に筋肉があります。
第2章 筋肉のコリ
ストレス
ストレスという言葉は便利で、いろいろな場所で使われています。だが何故身体に影響するのかを誰もが教えてくれません。結果のみ一人歩きしています。
「あなたの身体はストレスが原因だから、それを取るようにしなくては駄目だ」と言われても、大体に於いてストレスというものは、望みもしないのに勝手にやってくるものです。ストレスを原因とするなら、それを拒否する方法を教えてくれなくてはどうにもなりません。
ストレスという言葉を初めて提唱したのは、カナダのハンス・セリエという人でした。
私は長年人の身体に接しています。その経験から、ハンス・セリエが言うストレスを受けた時、その思いが作る筋肉の緊張が、身体を刺激し、より強く筋肉を固めていくことが解りました。それは長時間力を出し続けた時や不安定な状況で長時間いた時よりも、筋肉が強く固まるのです。
通常の人の筋肉は、嫌な事が起きた時、それを思ったとき、またショックを受けたときに、それをデフェンスするように自動的に緊張します。このメカニックを変えるには相当の訓練が必要となります。
嫌なことがあれば、まず胃腸が固まり、食欲を無くします。不安や恐れがあれば、心拍数も変わり、息苦しくなります。その人にとって最大級のショックが掛かれば、動けなくなるし、時には一瞬の内に、頭髪が真っ白になることもあります。これは極度に、瞬時に筋肉を強く固め、「コリ」をつくり、血流を止めてしまったために起きた現象です。
またストレスは他の解釈もあります。単に物体にその許容範囲まで、力を加えることをもストレスと呼んでいます。
ストレスをどう理解し、それによる影響をどう判断していくかは非常に難しい問題です。
くよくよ、ねちねち、神経質にしているような人は、ハードな「コリ」を作っていると思ってください。それが病気をつくるのです
筋肉の経年変化
筋肉細胞のあらゆる細胞が代謝され作り替えられていきます。素晴らしいメカニックですが、そう都合良く作られていきません。再生されるというと新しいものに生まれ変わると考えがちですが、そうは問屋が卸してくれません。
筋肉細胞は常に現状態を記憶しそれを代謝します。ここが都合良く考えられない元です。ところが現状態を再生すればよいのですが、その時の状態が上向きにある時は非常に好都合に代謝されていきますが、悪い方向にある時には日々その状態は悪化する方に向かっているので、細胞の再生は悪い方に再生されていきます。
ガンが発見され、それがどんどん悪い方にいき転移していくのも、その悪い輪廻にはまってしまった証拠です。それをガンを作ってきた環境全てを良いものに変えれば、日増しに良くなっていきます。
細胞を常に良い方向に向けているのと、悪い方向に置いているのとでは、180度違ってくるのです。
筋肉を運動によって固めた人がいます。25歳位としましょう。1、年2年何ら変わりは見られませんが、20年以上経った時、いろいろなダメージが出てきます。それは固めた筋肉が再生される時に、その時の悪いものを転写します。日を重ねる内に徐々に悪い方に向かっているものを転写再生していくと、年月の間にそれが積み重ねられ、かなり悪い状態に作られてしまいます。若い時の付けを、年を取って払うことになる訳です。
筋肉細胞の状態を常に良い状態にしていると、良い状態のものが代謝されていくので益々良い方向に向かっていきます。
しかし多くの場合悪い方向に向かうことが多いのです。それが老化を促進していきます。良いものはそれ以上良いものにはなりません。良い方向に向かっているものは次第に良くなっていきますが、悪い方に向かっているものは、どんどん悪い方に向かってしまいます。
「コリ」のステージを決める
一般的な筋肉の「コリ」については説明してきましたが、まだ臓器や器官を作っている平滑筋について詳しくは説明をしていません。
心臓を作っている心筋は、核は一つで、一般の骨格筋と同様の横紋筋でできています。他の小腸や血管のような平滑筋の「コリ」については機会をみて、述べていきます。
コリというのは多種多様です。一概にコリといっても、その成り立ちには違いがあります。柔らかい人もいれば、針金のように硬くなっている人もいます。
「Aさんは腹部にコリがある」といっても果してどのくらいのコリなのかを判断する材料がありません。「とにかく硬いのです」といってもどの程度硬いのかは、聞いた側は適当に解釈するしかありません。横に繋がった施術者同士の情報の交換には、それでは相応しくありません。一言で分るようにします。
まず「コリ」のランクをステージという言葉で表現します。
次に「コリ」の表情をステージ0、ステージ1、あるいは2という具合に分けます。そしてステージの中でその硬度について現していきます。例えばステージ11、ステージ12としていきます。
ステージの分類
ステージ0
コリの無い状態を表します。
ステージ1
各部位の筋肉の形状の状態で、コリをつくっているもの。
ステージ2
親指の第一関節程度の長さの(約3㎝)をもったコリ、鶉の卵を薄くしたようなものと思ってください。
ステージ3
ステージ2の形状を小さくして、豆状になったもの、ビスタチオの豆の大きさから小豆豆の大きさまでとします。
ステージ4
米粒から、ゴマ粒状のコリ。
ステージ5
筋繊維状に固まったコリ
ステージ6
ステージ5のコリが楊枝の太さになっているもの。
ステージ7
ステージ6に、ステージ3あるいは、ステージ4のコリが加わったもの。
ステージ8
骨状に骨化しているもの。
硬度の規定
硬度については、施術者の感覚の判断に頼ることになりますが、概ねを規定し、臨床に於いて、硬度の査定について一定であるように訓練をする必要があります。
硬度1
軽く触れて弾力を感じるもの。
くすぐったさや、やや痛みがあり、コリ感があるもの。
硬度2
軽く触れて、硬さを感じるもの。痛みがある。コリの重さを訴えられるもの。
硬度3
指で押して、中に浸透していかない固いコリ。強烈な痛みを訴える。
硬度4
指で押して弾き返されるようなコリ、バンバンに凝っているといったもの。神経が麻痺していて痛みは感じないもの。
硬度5
骨化の手前、ステージ5のコリの場合にある実際の米粒のように硬いもの。先端に芽が出たような突起がある。
以上のように規定します。また新たな発見があればランクの変更を加えていきます。
第3章 既成運動理論の間違い
筋肉を鍛える愚かさ
身体が弱り、力不足を覚えると、筋肉を鍛えなければという感覚が日本人の中にはあるようです。鉄は鍛えれば強くなるかもしれませんが、人間の身体と一緒にしてはいけません。
筋肉は鍛えれば鍛えるほど硬くなり、柔軟性に欠け老化していきます。筋肉を鍛えるとは、筋肉を硬く固めることです。筋肉を固め、強い力を加えると、それに反応して筋肉が張って膨張します。それが加算されると筋肉全体が大きくなっていきます。つまり「力瘤」が作られていく訳です。「筋肉は大きさや量が増えるが数は増えない」ということを前章で学びました。決して筋肉の数が増えていく訳ではないのですが、大きくなると筋肉が強くなったと誰でもが感じます。実はこの状態は、ある種の方向への力や衝撃に強くなっていくだけで、どんどんと不器用になってきます。つまり柔軟性に欠けていく訳です。そして筋肉を使っている際は血液が多く流れているので発熱し、活性化していますが、使用を停止し時間が経過すると冷えて硬くなり、血行が悪くなり代謝が衰えてきます。長時間使用停止すれば代謝が落ち筋肉は老化していきます。鍛えるというのはこのようなことです。筋肉隆々とした人が細かい作業が出来ないのは、筋肉が硬くなりいろいろな動きに柔軟性が欠けてくることなのです。
例えば、ダンベルを用いて上腕、前腕を鍛えている人がいたとします。その人に箸を使って米粒を1粒1粒右のお皿から左のお皿に動かして貰います。まずぎごちなく下手をすると米粒を摘むことも出来ないかも知れません。一方、鍛えたこともないような人、つまりは筋肉がとてもあるように思えない人にやってもらえば、同様なことがきっと容易に出来ると思います。
鍛えるという行為は、力を入れて筋肉を硬くし、一つの動作に対してだけ強く働くようになるだけなのです。
多くの運動理論の間違い
筋肉を使うということには、いくつかの方法があると考えます。筋肉を緊張させて固めある種の衝撃やショックに対応するという使い方。筋肉を繊維束までも動かして、ある種の行為に対応する筋肉の使い方に分けられます。
ウオーキングを通して前者の例を述べてみましょう。まず歩き始める際、どちらかの脚を前に出します。その時に前足に自分の体重の何割かを掛けて移動します。体重70kgの人が70%体重を乗せて前足を出すと、50kg近い荷重が脚に掛かります。脚の筋肉はその体重を支えるために緊張してそのショック耐えられるように硬くなります。つまりは筋肉を使うというよりは固めて耐えているといった方が正しいかも知れません。
次に前に進む時、逆脚が前に出て同様なことが行われます。ここで筋肉の特性を思い出して下さい。筋肉を緩めるには対立する筋肉を動かして緩めるか、自然と緩むのを待つかしかありません。しかし歩いている時に、対立する筋肉をどのようにして使かったらよいのか、私には理解できない難しい行為です。では次に自然と緩むのを待つでは一歩を踏み出すのに2,3秒待たなければなりません。それでは歩くという行為にはなりません。つまりは筋肉が緩まないうちに次の緊張行為があり、それが積み重ねられて行くことになります。これでは脚の筋肉は益々緊張してより強く固まっていきます。ですから上手い歩き方をしない限り、歩く動作のほとんどが脚の筋肉を固めているという運動なのです。
走るのはどうだろうか?
走っている時は、空中を飛んでいるといった感じで体重を前足に乗せ着地します。その反力に抵抗するために、歩く時よりも更に筋肉を緊張させ硬くしてショックに対応します。そしてその緊張が解ける前に次のショックがくる訳ですから筋肉は更に硬くなっていきます。
日課として歩いている方や、ジョキングをしている方たちの脚を見せてもらうと、脚が硬く締まっています。それがとても良い筋肉の状態と思いこんでいる人がほとんどです。この話だけではありません。筋肉を鍛えようとしている人は、締まった硬い筋肉を良いと思っているのです。
それでは歩いてはいけないのか?そんなことはありません。せっかく直立歩行が出来るように生まれたのです。歩き方を工夫すればもちろん問題がありません。ただ常に走るというのはかなり身体に負担がかかることには間違いありません、
ボクサーの筋トレは?
ボクサーのトレーニングを見ていると、走ったり、縄跳びをしたり、シャドウーボクシングなどをしています。
走って、減量や持久力をつけるのが目的なのかと思いますが、減量はともかくとして持久力が付くのでしょうか? 試合の際、3分間ごとにインターバルがありますが、4回戦あたりになるとかなり息切れがしている姿をよく見かけます。20分程度の時間で息切れするのは、持久力をつけようと走っていることが間違っているのです。まず脚の筋肉を固め、腹筋、背筋、胸筋を固めます。このことによって呼吸が浅くなります。ただ走ることなら単純な動きですが、前後左右に動く動きをすると、単純な動きで作った筋肉では付いていけず疲労度が増してきます。長時間動かなくていけない競技では、腹部、特に鳩尾、そして胸の筋肉の胸筋や肋間筋を固めてはいけないのです。走ることは前述しているように多くの場合、筋肉を固める行為です。そしてただ走るだけの筋肉を強化するので、自由な筋肉の動きを阻害してしまうのです。
呼吸だけに限って言えば、走っている時の呼吸はある程度のリズムが作られていますが、常に変速的に動く時の呼吸は一定のリズムを作れません。走ることで、一定のリズムで呼吸するようにして固めた呼吸筋では、変化のある呼吸にはついていけないので酸欠となり、疲労が増していきます。また真っ直ぐに走ってばかりいると、一定方向の筋肉が固まり、横への動きや後ろへの動きがしにくくなるのです。
空手では
空手家で、時に組み手を行う空手では、打たれた時にダメージを受けないようにと腹部を硬くします。それを高じていくと筋肉が硬く固まります。そこにある神経の伝達が悪くなり痛みを感じなくなります。それを勘違いして打たれ強くなったと思いこみます。しかし腹部や胸部を固めることで呼吸する能力が落ち、酸欠し疲れ易くなります。
また、ダンベルを持って腕の筋肉を鍛え、サンドバックを打っていると腕の筋肉が固まります。サンドバックを打つ時の衝撃を、強く固めた筋肉で受けている訳です。拳を前に出す力は固まっている筋肉では出しにくいのです。本来素早く出したい訳ですから、出来るだけ柔らかい筋肉でなくてはいけません。鍛えることは目的と逆なことをしているのです。
戦国の格闘家は
いろいろな人の書いている三国志などを見て、その作家なりのいろいろな表現がありますが、戦闘シーンなどで有に5時間6時間戦闘が続いたなどというのがあります。現在のボクサーや格闘家では、直に「バテ」てしまい、このような戦争では付いていけず次ぐに戦死してしまうでしょう。縦横に動くには筋肉を鍛えるのではなく、自由に動かせるように作っていくことなのです。
ウエートリフティングを見て
リフティングの選手を見ていると逆三角形の筋肉を作り、腕は丸太のように太くなっています。持ち上げる時の筋肉ではありません。上に差す時の筋肉は伸筋です。屈筋側の筋肉を大きくしていけばいくほど、上には上げにくくなります。また腕の筋肉を固めれば固めるほど延ばす方向の筋肉は使えなくなるのです。
腕を前に出す、あるいは上に突き上げる動きをスムース行うためには、腕の外側の伸筋側の筋肉が必要です。それを柔軟にしておかなければならないのです。筋肉の作り方や練習方法が間違っているのです。
第4章 筋肉の作り方
筋肉の成り立ち、状態、働き、間違った使い方などを述べてきました。これからは筋肉の正しい使い方、作り方、そして筋肉を固めてコリを作らない動かし方を述べていきます。
筋肉をつくるには
筋肉を作るといえば、まず筋肉を鍛えるという発想が生まれてきます。大昔から連綿と受け継がれてものです。職場で、皆が持っているものを持てなかったりすると、「筋肉を鍛え9おなくては駄目だ」などと先輩から言われてしまうのではないでしょうか。身体がなまったり
すると「運動しなくては」という発想と同じです。
ただ単に筋肉を鍛える。運動するということが、身体にとって最悪であることが長年の研究で解りました。
筋肉を固め鍛えることは、自分で意識的にコリを作っていることに他ならないからです。コリが病気を作るということは、読者の皆さんには既に理解されていると思います。
さてそれでは理想的な筋肉をつくるということはどのようなことかこれから論じていきましょう。
まず水筋肉をなくそう
水筋肉とは私の造語です。筋肉のなかに水が含まれ「ブヨブヨ」になっている状態の筋肉を言います。
人間は食べ物や直接飲料から水分を吸収していきます。食べ物から吸収され、ブドウ糖や他の物に置換され、血液を通して全身を廻ります。血液中の1/10ほどがリンパ液となり身体の免疫をつかさどり身体を守るために使われていきます。血液は腎臓を経由し、再生され、古くなったものは尿として捨てられていきます。この腎臓の機能が衰えると、血液の浄化がスムースに行われなくなるのと同時に、古くなって捨てられなくてはならない尿が、筋肉の中に留まってしまいます。また、筋肉が固まり回収が滞り同じ状態になります。
リンパ液は静脈やリンパ管を通して心臓にもどり、それが腎に送られますが、動脈のように圧力がないので、筋肉の動きによってポンプアップして心臓に戻ってきます。当然後戻りしないような逆止弁的な構造に出来ています。筋肉が硬く弾力がなくなると、個々の筋肉ではなく、筋肉全体が動くこととなります。水を送り出すような働きが出来なくなり、リンパ液は戻らなくなって、リンパ液が筋肉に含まれた状態になります。この状態を私は水筋肉と名付けました。
水筋肉になると、筋肉全体に水が含まれ、筋膜の接合などに支障が生じます。隣接する筋膜同士が巧く結合しなければ、一体とならないので大きな力を生み出すことが出来なくなります。それに筋肉の代謝が悪くなってきます。
浮腫などに見られるむくみは大いにして腎臓の機能低下があるのですが、筋肉が固まってコリをつくってしまうことでも作られてしまうのです。
この水筋肉の状態を長く続けると、筋力の低下が日増しに起きてきます。水筋肉を取らない限り、筋肉の再生は難しくなります。
筋肉の使い方
動きをスムースに、強い力を発揮できる筋肉を作るにはどうすればよいのでしょうか。ベンチプレスやダンベル、腕立て伏せ、兎跳び、走ることではより良い筋肉は作れないことは学びました。
筋肉を固める方向ではなく、筋肉を自由に動かせるように、しかも強い力を発揮できるような筋肉に育てていくことが、より良い筋肉をつくることなのです。その為には、特に骨格筋の全てを柔軟にしなければいけません。
① 手の動かし方
指を内側に曲げる時には前腕から続く腱が働きます。そして指が動きますが、そこに力を加えれば、前腕の屈筋側の筋肉が使われますが、多くの場合、屈筋側とそれに対立する伸筋側の筋肉を同時に使っています。伸筋は手を開く時に使う筋肉です。それを結ぶ時に使うということは、屈筋の力にブレーキをかけていることに外なりません。
随意筋を動かす時には意識を用いれば良いことは学んできたはずです。手を結ぶ時には指の筋肉を使わず、前腕の屈筋を意識して動かして使います。伸筋は少し動きますが、使って動くのではありませんので、またその動きは屈筋の働きにブレーキをかけるわけではありません。
手を開くには、前腕の伸筋を意識して動かします。手を強く握るには、手に力を入れず前腕の屈筋に「強く握れ」と命令します。これで手に力を入れた時には出せない力を発揮できます。この筋肉トレーニングを常に意識しながら行うと柔軟な強い筋肉が作られます。
② 前腕の動かし方
前腕を動かすには前腕の筋肉を使わず、上腕の筋肉を使って動かしていきます。内側に倒すように動かすには上腕の屈筋を使います。外側に動かすには伸筋を使って伸ばすように曲げるのがベストです。時には筋肉を逆使いしても構いませんが、あくまでも片側の筋肉のみ使うようにしなければいけません。両側を同時に使うと力を相殺してしまい、いくら力んで力を入れてみてもそれほど強い力を発揮することは出来ません。
③ 腕を動かすには
腕を動かす時には、腕の筋肉を使わないようにします。肩や背筋を使って動かします。要領は指や前腕を動かす時と同様です。
以上のような筋肉の使い方をしてくると、無理のない良い筋肉が作られていきます。
通常、人は同時にいろいろな筋肉を使っています。相対する筋肉を使い、動きや力の度合いを相殺します。それをカバーしようと無駄な力みを余儀なくされます。分かり易く説明すれば、右手で腕相撲をした時に、左に倒そうとするのを、右に「それは駄目だ」と引っ張る力を使っているということです。
肘を曲げてダンベルを持ち上げようとする時、前腕の屈筋だけを使えば良いのに、外側の伸筋まで力を込めて使っているということです。
そのような筋肉トレーニングをすると、動作と反対方向の筋肉は固まり、あるいは突っ張り、筋肉を作るというよりも、固まり硬くなり動きの自由度がなくなっていきます。
筋肉をつくるには、
○筋肉を使い分ける。
まず、いろいろな部位の筋肉を使い分け出来るようになることです。筋肉は400種以上もあります。極端にいえばそれらの一つひとつを自由に使うようにすることなのです。
○目的に合わせた筋肉を使う。
前述の右手の腕相撲で、左に倒す時に前腕の屈筋側を使うと言いました。その時には伸筋側は使いません。しかしそのように窮屈に考える必要はないのです。伸筋側だけを使って左に倒すことが出来ます。むしろ力はこちらの方が強くなります。目的に合わせた動作を作る時にも、結構自由度がある訳です。
○力を込めない。
筋肉を作る時に、力を込めて作ってはいけません。力を込めるということは全て筋肉が収縮緊張することです。それを繰り返せば固まり、それが強くなればコリとなってしまいます。
○常に筋肉を意識する。
筋肉をつくるには、動作に合わせた筋肉を常に意識することです。これを繰り返し訓練していくと、無意識的に別々の筋肉が使い分け出来るようになります。小脳が発達してくるのでしょう。
○長時間同じ訓練をしない。
人によって、あるいは筋肉の部位によって、長時間使用することが無理な場合があります。またそれは無理のない訓練によって、長時間使うことが出来るように時間を延ばしていくことができます。しかし最初に無理な時間を設定し、訓練すれば筋肉は固まっていきます。炎症も起こします。
○筋肉は癖を覚えこむ。
筋肉は前に作った悪い状態のものほど記憶しています。まずこの癖を取ることが必要です。どうしても目的の動作が出来ない場合、得てしてその癖が出ていることが多いのです。それが解ったらまず、この癖を取るようにします。
○筋肉をつくる時に力をいれてはいけない。
筋肉には、外側の筋肉と内側の筋肉があります。力を入れて筋肉を使うと外側の筋肉「外筋」が固まってしまいます。より強い大きな力を発揮する。あるいは柔軟な動きを作る筋肉は内側の筋肉「内筋」です。内筋をつくるには力を入れては作ることが出来ません。
また健康面でも外側の外筋を固めると、血液の流れが悪くなり全ての面で良くありません。