IPS細胞移植は快挙なのか
本年2月20日付の読売新聞一面に「IPS医療実用化了承」という見出しが躍った。産経新聞も同様の論調で報じている。
IPS細胞から作製した心臓病およびパーキンソン病の再生医療製品2種について、条件・期限付きで製造販売が了承されたという内容である。その画期性ゆえに、各紙が大きく取り上げたのであろう。
新たに作製した細胞シートを患部に移植することで、心臓病やパーキンソン病の症状改善を目指すという。この成果は、iPS細胞を生み出した山中教授の長年の念願の一つが実を結んだと言えるのかもしれない。
しかし、私はこの方法を無条件に「是」とは言い切れない。なぜなら、それは病気を根本から「治す」ものではなく、機能を補う対症療法にとどまる可能性があると感じるからである。本来「治療」とは、字義どおり“治すために療を施す”ことではないだろうか。
もちろん、医療従事者の努力を否定する意図はない。ただ、投薬や手術、医療機器の開発といった従来の延長線上だけでなく、より広い視野、いわば水平思考による研究も必要ではないかと考えるのである。
心臓病について
心筋は、十分な血液が供給されていれば正常に機能する。しかし、冠動脈などの血管が何らかの理由で狭窄・圧迫されれば、心筋は必要な血液を受け取れず、不具合が生じる。
もし血流障害の原因が残されたまま、機能低下した心筋をIPS細胞由来のシートで補ったとしたらどうだろうか。血管そのものの状態が改善されなければ、代謝や循環の問題は依然として残るのではないか。老化した血管の脆弱性も無視できない。
シート移植は確かに機能回復を助ける可能性がある。しかしそれが一時的な補助にとどまるのか、あるいは根本的改善につながるのかについては、慎重な検証が必要であろう。
パーキンソン病について
西洋医学では、パーキンソン病は脳内でドーパミンが不足することによって運動調節が障害される病気とされている。ドーパミンは意欲や学習、運動調節に関与する神経伝達物質であり、その不足が運動障害を引き起こすと考えられている。
ドーパミンは、食事由来のタンパク質が分解されて生じるチロシンを材料に、脳内で合成される。
では、仮に血流が滞り、チロシンが十分に脳へ運ばれなかった場合、どうなるのだろうか。
身体の各部位で血流障害が起こり得ることは広く知られている。もし脳への血流が不十分であれば、ドーパミン合成にも影響が及ぶ可能性は否定できないのではないか。
この観点に立つと、症状の背景にある血流や筋緊張といった全身状態を無視することはできないと私は考える。
筋肉と血流という視点
これまで私が接してきた、パーキンソン病と診断された人々の多くに共通していたのは、首や肩だけでなく全身の筋肉が強く緊張しているという特徴である。
歩行困難、手指の振戦、書字困難といった症状があっても、過度に緊張した筋肉を丁寧に緩めていくことで、症状が軽減した例もある。筋緊張が血流を阻害し、代謝機能を低下させ、神経伝達にも影響を及ぼす可能性は十分に考えられる。
もちろん、すべてを単純化できるわけではない。しかし、筋肉の状態や血流改善という視点をより重視する余地はあるのではないだろうか。
おわりに
IPS細胞という革新的技術を生み出した山中教授の功績は、間違いなく称賛に値する。
一方で、最先端医療に期待を寄せるだけでなく、身体全体の循環や筋肉の状態といった基礎的視点にも目を向けることが、本当の意味での「治す医療」につながるのではないか。
再生医療と身体機能の根本改善。その両輪がそろってこそ、医療はさらに進歩していくのではないだろうか。







