重心を知ること

座っていても、立っていても常に重心を身体の正しい位置に置けば、バランスのとれた、安定のある、
あるいはいつでも力を発揮できる状態に置くことが出来ます。

多くの人の動きでほとんどが重心の位置などを気にしている人はいないでしょう。現代女性の立ち姿などはその極めといえます。
腰を引っ込め、腹を出し、尻を突き出して立っています。その負担が腰や腎臓にかかり、
腰痛や便秘、偏頭痛、むくみなどを起こしていることなど知る由もないでしょう。

正座でも、趺坐してもいいのですが、座った人のやや前方脇に立ち軽く背を後ろに押してみてください。
ほとんどの人が倒れてしまいます。

今度は足を肩幅に平行にして立った状態で、同様に肩を軽く押してください。
やはりほとんどの人がバランスを崩してよろよろとしてしまいます。

これらはすべて重心の位置に問題があります。座った姿勢から背をまっすぐにさせ(反らしてはいけない)顎を引き、
頭の位置を15cmほど前に来るように前傾させます。そして先ほどと同じように押してみてください。おそらく動かなくなるでしょう。

立った場合でも背を反らさず、足の指に少し力がかかる程度前傾させます。
同様に押してみれば判りますが先ほど度と違ってしっかりと立っていられると思います。

簡単な実験でもお分かりかと思いますが、重心の位置を正しただけのことで、しっかりとした身体つくりができます。
これが座ったときやただ平行に立った場合だけではなく、いろいろな動作に対応して動く場合でも重心の位置を適切に移動させることで、安定した動きをすることができます。

右手に少し重いカバンを持った場合、ほとんどの人は上半身を左に傾けて立っています。この立ち方は非常に不安定で疲れる立ち方です。
カバンを持ったそのまま肩の位置を上下させることなく、身体をまっすぐに左に5cmほど平行移動してみてください。
まずカバンが軽くなります。身体を曲げて立っていないので、まず疲れ方が違ってきます。
疲れてきたら持ち手を変え、重心の位置を変えれば左右対称になるだけで同じことになります。

いろいろな動きに合わせてバランスよくするのは、重心の位置を的確に移動することにつながります。
このしっかりとバランスのとれた状態を立身中正といいます。

バランスの崩れた身体では力を発揮することはできません。 歩行はまさにこの重心の移動の連続になります。
これをマスターするとどの位置で押されてもしっかりと立っていられます。後に私の歩行法を説明していきます。
そこでは信じられない力を見出すことになるでしょう。

 重心の移動の仕方には次のようなものがあります。

 1 重心を預ける

 2 重心を寄りかける

 3 重心を傾ける

 4 重心をかぶせる

 最後のかぶせるは私の造語ですが、これを上手くできると相手の自由を奪うことができます。

 単に崩すのとは一味違う相手を制御する方法です。

重心の移動

武術ではこの重心の移動が、相手を崩し、またより強い力を発揮できる元になっています。

「相手を崩す」どのような理合いにおいても大切なものです。
投げる、打つ、また剣での受けでも崩しをつくることができないかで技の切れが違ってきます。

合気柔術の合気上げは、この崩しの代表的なものであるとも考えられます。
ただし少しオーバーでこれほどしなくても相手を崩すことができます。

崩しは、相手に悟られない範囲でかけるのが最良です。初心者に教えると、ただ押すといった感覚で崩そうと考えがちで、
押すのと微妙なバランスを狂わすのでは違ってきます。

相手を後ろに崩すとき、1cmか1.5cmも後ろに重心を移動するだけで充分で、
それ以上押すと相手はその押しに対して反応してバランスを整えてしまいます。
押す力を発揮するには、腕や手で押すことでは作られません。
一番簡単にできる方法は、自分の重心をほんの少し前に移動することでつくることができます。
ただしこのときに腕や手にいささかの力が入っても、相手は感知し、重心を移動しても、
ただのしかかって来られたと思いそれに対応されてしまいます。

相手に接している面は微動だにしないことが条件です。すべてに力を入れてしまう身体ではつくることは不可能です。
そこで手首をロックし、相手を浮き足立たせ少し後ろに押してバランスを崩す、合気上げという技ができたと思います。
勁力というものを知らなくても、張りをつくって力で手首を内側に向けてくればできる技です。

崩しは、重心の移動や太極拳の靠でもつくることができます。また勁でもつくれますが、
勁を使ってしまうと次の技の展開が狭くなってしまう欠点がありあまり使いません。

実際の剣ではやったことはありませんが、竹刀での稽古では時々弟子に見せることですが、
弟子の打ち込みを軽く竹刀で受け、相手の竹刀に自身の竹刀を密着させたあと、微妙に崩します。
その後、竹刀を動かしていくとその竹刀について離れずにくっついてきます。相手はそれをはずすことができなくなります。

(ビデオに竹刀と竹刀をつけたところからの技の展開がありますので、分解写真として紹介しておきましょう。)

重心の移動による崩しを紹介してきましたが、武術に於いてもう一つ大事なことを述べていきます。
重心を大きく動かしていけば、歩くことに繋がってきます。重心の移動を行った上で次のステップに移るということをしていくと、
常にバランスのとれた状態をつくることができます。

それでは摺り足が良いのかという単純なものでありません。
重心の移動を常に行った後動くということで、歩行の形にこだわるものではありません。

多くの場合の歩行は、空中で重心を移動させて歩行したり走ったりしています。
たとえば右足を出して進んだとき、右足が着地したと同時に重心が移動してきます。

旨く脚が着地できたときにはバランスを崩さずにすみますが、ほとんどが不安定な状態です。

私の歩行法では、まず左足に重心を置き、右足を前に出し着地させます。
そして右足に重心を移していき充分に右足に重心を移動しきったら、次に左足を前に出し着地し・・・・・という風に歩行していきます。ここでの要は、まずやや前傾し、右足を出してから、左足の膝を緩め歩く方向に膝を送っていくと、右足が着地します。
そして左足で更に前に送ると重心が右足に移ってきます。ある程度送られてきたら、
今度は右足で受信を乗せるようにしていき、完全に重心を右足に乗せきったら、
次のステップの左足を前に出していくという過程を踏んでいきます。

頭の高さを一定にした能の動きと変わりないようですが、能の舞の横の動きは重心の移動ができてよいと思いますが、
前の動きにやや引っかかるものがあります。舞う人によるのでしょうか。
重心を移動してバランスを整えた後、移動していくというのが私の歩行です。

この方法で体を捌いていきます。飛んだり跳ねたりしません。飛んだり跳ねたりして移動した場合には、飛ぶ瞬間や、飛んでいるとき、
着地した瞬間に攻撃を受けたら、体を捌くことはできなくなります。
剣道や柔道を見ていても、攻撃を仕掛ける前に必ず準備動作があります。
そのクセを見抜くと簡単に準備動作の瞬間に入っていくことができます。

常にバランス整えておき、いつなんどきの攻撃や受けでも対応できる状態にしているということです。
右に動こうとしたときに、右足に重心があったら重い身体を抱えて飛ぶしかありません。
あるいは一端左足に重心を移して左足で蹴って飛ぶという動きになります。

常に重心を身体の中心に置き、右に移動するときに摺り足気味に右に脚を出し、
体重を左足で支え、右足が着地した後、重心を移動しながら右足に移していくという方法で捌きを行うと、
一見遅くなるように考えるでしょうが、飛んだり跳ねたりして移動をするよりはるかに速い移動をすることができます。