筋肉には日々の生活や訓練などで作られたクセが存在します。また筋肉の組成の成り立ちから決まった動きがあります。
そのことを知らなければ上手に筋肉を使うことができません。

武術での多くの技は筋肉をうまく使うことでつくることができます。
ひとつひとつの筋肉とその連動によって単純な動きも複雑な動きもつくることができます。

日本の武術には固さがあります。古武術、剣術、柔術あるいや舞踏、能舞も動きに硬さが残っています。
能の舞を高評価する人が多いのですが、もう少し柔らかい表現があっても良いのではないかと思います。

日本人は筋肉を固めて動くクセをもっています。もう少しのびのびとした筋肉の使い方をしていくことが大切です。

筋肉の数は相当数になります。筋肉はそれぞれ各個に動きを作ることもできるが多くは他の筋肉と連動して動きをつくっていきます。
むしろ単体の筋肉を使うことの方が難しいといえるでしょう。私の武術はこの単体の筋肉をいかに合理的に使い技をつくっていくかです。

それぞれ各個の筋肉には筋束という束の集合でできています。
ひとつの筋肉の中でもこの筋束一本一本が別々に働き微妙な動きを作っていきます。

筋束は筋節という節があります。筋束の微妙な動きはこの節が作り出します。
その筋節の部分に脳が動きを命令すると神経の働きによって伝令が伝えられます。それはカルシウムに姿を変えて届きます。
そのカルシウムを筋節の受動体(レセプター)がキャッチします。そしてミオシンとアクチンというものが動き筋肉が緊張します。

その筋肉の緊張は命令を解くまで続きますが、解いてもそれを戻すことを脳の命令ではできません。
自然と元の状態に戻ることしかできません。

更に筋肉は一度受けている命令を実行しているときに、次の命令を出しても受け入れできません。一端2という力を入れたときに、
「2では足りないから5にして」というわけにはいかないのです。また「待った」もききません。
命令を解き、再度行うしかありません。これが大きな筋肉のクセといえます。

このクセをうまく利用することで技を作っていくことができます。ある一種の弱い力を相手に与えた後、
それを緩めずに次にその力より強い力を与えると、相手を簡単に押すことができます。

しかしこの力を緩めずに次の力を加えていくことが難しく、初心者にはなかなか出来ません。

筋肉のクセはまだあります。強く緊張し固められた筋肉は、すっかりもとの状態にはなかなか戻りません。
その状態を繰りかえし続けていくとどんどん元に戻らなくなり筋肉が固まってコリを作ってきます。
コリの作られた状態の筋肉を緊張させたあと戻そうとしても、最初の何の拘束も受けていない筋肉の状態には戻らず、
コリを作って固まっている状態に戻ってしまい、ますますコリを助長していきます。

コリのできている筋肉と正常な筋肉が連動して動くときには正常な筋肉の動きはスムースですが、
コリの作られている筋肉は不自然な動きになります。それが組み合わさられると、一つの方向に動くが限定されていきます。
これがクセといえます。クセをとるには筋肉の緊張をほぐしコリをとることと、偏った動きの逆の動きをすることでも取れていきますが、逆の動きを見つけることが難しいでしょう。

筋肉にコリをつくると、柔らかいゆっくりとした動きをつくることができません。
また「力を抜け」といわれても抜くことができない体になります。

スポーツでも武術でも共通ですが、力を入れて練習や修練を続けていくと一種方向だけに筋肉が固まり、
身体にクセをつくっていくことになります。筋肉をいじめることだけはやめましょう。