ALSと生きる ― 希望への道

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、厚生労働省が指定する難病の一つです。人工呼吸器を使用しない場合の平均余命は約2~5年といわれ、現在でも根本的な治療法が確立されていない難病として知られています。

・主な初期症状には、次のようなものがあります。

・手足が動かしにくくなる。

・呂律がまわらなくなる。

image-1・力が入らなくなる。

・筋肉が痙攣する。

・首が前方へ垂れる「下がり首」が現れる。

私はこれまでに3名のALS患者を施術する機会を得ました。そのうち2名は病状の改善がみられ、いわゆる寛解といわれる状態に至りました。

こうした臨床経験を重ねる中で、私はALSの症状は筋肉の硬直と神経伝達の異常が深く関係しているのではないかと考えるようになりました。これは遺伝や事故などの外的要因だけでは説明できず、日常の姿勢や筋肉の使い方が大きく影響しているというのが、私自身の長年の臨床から得た結論です。

左のイラストに示した姿勢は、日常生活の中でよく見かけるため、多くの人が悪い姿勢とは気付きません。しかし、私はこの姿勢がさまざまな不調を生み出す重要な要因の一つであると考えています。

まず、身体が後方へ反った姿勢になると、脊柱起立筋、大腿直筋、ヒラメ筋、内側広筋が常に緊張し、硬直しやすくなります。

さらに、身体が反った状態のまま頭部を支えようとすると、頭部の重みで後ろに倒れてしまいます。それで首を前に曲げてバランスを保とうとします。そのために胸鎖乳突筋、頭板状筋、棘上筋、菱形腱橋(りょうけいけんきょう)が硬直していきます。

加えて胸筋も硬直することで、胸郭の動きが制限され、呼吸が浅くなります。その結果、呼吸困難や嚥下困難などの症状が徐々に現れるようになります。

このように、一見何気ない姿勢であっても、長期間続けば筋肉の硬直は次第に強くなります。私は、その硬直した筋肉が神経や血流に影響を及ぼし、さまざまな神経障害を引き起こしていくと考えています。そして、その積み重ねがALSにみられるような症状を形成する一因になっているのではないかと捉えています。

本章では、私が長年の臨床経験を通して見出した神経麻痺の原因と、その改善方法について順を追って説明していきます。

神経麻痺

日常生活の中には、自分では気付かないうちに神経が麻痺している人が少なくありません。

「無神経な人」という言葉がありますが、ここでいう神経麻痺とは性格のことではなく、身体の神経伝達が正常に働いていない状態を指します。

私は施術中に患者さんの腕や脚に触れていても、まったく反応を示さない方に何度も出会ってきました。

ある患者さんは施術中に、

「先生、何をしているのですか?時間がもったいないので施術してください。」

と言われました。

しかし実際には、その方の腕や脚に触れながら施術を行っていました。

つまり、その方は触れられているという感覚、すなわち触覚神経の働きが低下していたのです。

また、その患者さんはアトピー性皮膚炎を患っており、特に手足の触覚神経の反応が鈍くなっていました。そのため、触れられていても感覚として認識できなかったのです。

このような例は決して珍しくありません。

軽度の神経麻痺では、触られていることは分かっても、「痛み」をほとんど感じない方が数多くいます。

そのような方に少し強めの圧を加えても、

「先生、何をしているのですか。」

と不思議そうな表情をされることがあります。

触覚は残っていても、痛覚だけが正常に働いていない状態です。

このような方々の筋肉に触れると、共通して筋肉全体が強く締ま

り、硬く硬直しています。

この硬直した筋肉を柔らかくしていく施術は容易ではなく、多くの時間と根気を必要とします。

しかし私は長年の施術の中で、一つの重要なことに気付きました。神経反応を回復させることができると、それまで頑固に硬直していた筋肉が、まるで嘘のように柔らかくなっていくのです。

この経験から私は、筋肉の硬直を改善するためには、単に筋肉をほぐすだけでは十分ではなく、神経伝達を正常な状態へ導くことが極めて重要であると考えるようになりました。

 

神経麻痺と血流阻害はどのようにしてつくられるのか

現在の医学では、神経麻痺は脳や神経そのものの異常によって起こると考えられています。

一方、私が長年の臨床経験から得た結論は、筋肉の強い硬直が神経を圧迫し、その結果として神経伝達が障害される場合があるということです。

この考え方を理解しやすい例として、「正座」があります。

長時間正座をすると、最初は脚にしびれを感じます。

さらに時間が経つと痛みが現れます。

しかし、正座を何日も繰り返していると、しびれや痛みを感じにくくなることがあります。

これを「正座に慣れた」「訓練の成果だ」と考える人もいます。

しかし私は、それだけでは説明できないと考えています。

実際に、長時間平気で正座ができる方の脚をつねってみても、「痛い」と感じないことがあります。

これは痛みに強くなったのではなく、神経の働きが鈍くなった結果であると私は考えています。

筋肉が長時間緊張し続けることで硬直し、その硬直した筋肉が神経を圧迫します。

その結果、神経から脳への情報伝達が妨げられ、感覚が低下してしまうのです。

神経からの情報が脳へ十分に届かなければ、脳はその部位の状態を正確に把握することができません。

また、脳から筋肉や各器官への正常な指令も伝わりにくくなります。

私は、このような神経伝達の低下が続くことで、身体にはさまざまな不具合が生じ、多くの症状へと発展していくものと考えています。

 

神経を麻痺させている部位

長年の臨床経験から、私は神経を麻痺させる原因となる部位が身体の各所に存在することを確認してきました。

その部位は、頸部をはじめ、手や腕、脚だけでなく、呼吸器や消化器などの内臓にも関係しています。

これらの部位の神経伝達を正常な状態へ導くことで、筋肉の硬直が緩み、血液循環も改善していきます。

以下に、私が臨床で行っている神経反応のつなげ方について説明

します。

 

腕・手の神経の通し方

腕の神経を通す施術では、まず胸鎖乳突筋の中央部から始めます。

神経が麻痺している方でも、この部位だけは痛みを感じることが多く、神経反応を回復させるための重要な出発点となります。

まず、この部位を軽く圧します。すると痛みを感じますので、その痛みを確認しながら少しずつ下方へ神経反応を広げていきます。

途中で痛みを感じない部分があれば、その部位の筋肉の硬直を丁寧に解し、痛みが現れるまで神経反応を回復させます。

さらに、その痛みが消失するまで十分に筋肉を緩めてから、再び下方へ進みます。

このとき、決して強い力で押してはいけません。筋肉を傷めないよう、軽い圧で神経反応をつないでいくことが重要です。

胸鎖乳突筋の起始部まで神経反応を広げたら、肩へと移り、さらに腕全体へ神経反応をつないでいきます。

腕関節まで到達したら、その部位の深層にある棘上筋の神経反応を確認します。

神経反応が十分に広がったことを確認した後、手首の支帯へ移り、さらに手掌側(屈筋群)から手背側(伸筋群)へと神経反応を広げます。

最後に、それぞれの指先まで神経反応をつないでいくことで、腕全体の神経伝達は正常に近づいていきます。

神経伝達が改善すると、これまで硬直していた筋肉は徐々に柔らかくなり、血液循環も良好になります。

さらに腕全体の筋肉を丁寧に解すことで、より安定した状態を維持することができます。

次に反対側の腕を確認します。

片側の神経伝達が改善すると、反対側も神経反応が向上していることが少なくありません。

不足している部分だけを補正するように施術すると、効率よく神経伝達を正常化することができます。

 

脚の神経の通し方

脚の神経を通す施術も、基本となる考え方は腕と同じです。

まず腕の神経伝達を十分に改善した後、胸鎖乳突筋起始部の裾側、鎖骨の下方深部にある脚の神経へつながるポイントを確認します。

この部位は圧すると身体を縮めたくなるほど強い痛みを伴うことがあります。その痛みが消えるまで丁寧に筋肉を解していきます。

続いて脚の付け根へ移ります。

屈筋側の筋肉を圧して痛みを確認した後、大腿部では内側広筋から始め、直筋、外側広筋へと神経反応を広げながら筋肉を解していきます。

大腿部が終了したら膝窩へ進み、さらに下腿ではヒラメ筋からアキレス腱へと神経反応を広げます。

続いて長趾伸筋、短母趾伸筋へ進み、足関節支帯、内果、外果へと施術を行います。

最後に足背部の腱や筋肉を解しながら神経反応を足趾まで広げていきます。

片側の脚が終了すると、もう一方の脚も神経反応が改善していることが多くあります。

その状態を確認しながら不足している部分のみ補正していくことが大切です。

最後に脚全体の筋肉を十分に解し、血液循環を改善して施術を終えます。

 

胸の神経の通し方

胸部の神経を通すポイントは、脚の神経のポイントから指一本ほど上方、身体の中心寄りにあります。

この部位も脚と同様に、痛みが消えるまで筋肉の硬直を丁寧に解していきます。

神経反応が正常になると、肋間筋をはじめとする呼吸筋の働きが改善し、胸郭の動きが滑らかになります。その結果、呼吸が楽になり、呼吸機能の改善が期待できます。

また、腹直筋などの緊張も緩和されるため、胸部や腹部にかかる負担が軽減されます。さらに、逆流性食道炎などに関係する筋肉の神経反応も改善し、それらの筋肉を十分に解して血液循環を促すことで、症状の改善につながると私は考えています。

 

肝臓・大腸などの神経の通し方

肝臓や大腸へつながる神経のポイントは、右側の脚の神経ポイン

トから右方向にあります。

この部位の神経反応が改善すると、肝臓や大腸に関係する筋肉の緊張が緩み、それぞれの臓器が本来の働きを取り戻しやすくなります。

その後、周囲の硬直した筋肉を十分に解すことで血液循環が改善され、臓器への負担も軽減されていきます。

 

胃・膵臓・脾臓などの神経の通し方

胃、膵臓、脾臓へつながる神経のポイントは、左側の脚の神経ポイントからやや左寄りにあります。

この部位の神経反応を正常化すると、胃、膵臓、脾臓へ神経伝達が届きやすくなり、それぞれの臓器に関係する筋肉が徐々に緩んできます。

さらに、その周囲の硬直した筋肉を丁寧に解すことで血液循環が改善され、これらの臓器の働きも向上していくものと私は考えています。

 

頸部と顔面の神経の通し方

頸部と顔面の神経も、出発点は胸鎖乳突筋中央部にあります。

この部位から頭部に向かって神経反応を確認しながら、胸鎖乳突筋停止部まで丁寧につないでいきます。

その後、耳下部、咬筋、眼輪筋、皺眉筋、前頭筋へと順に神経反応を広げていきます

。顔面にはさらに多くの神経反応のポイントが存在しますが、それ

らをすべて説明すると非常に煩雑になるため、本書では主要な部位にとどめ、詳細については割愛します。

 

ALSの症状と神経麻痺の分析

ここで、冒頭に述べたALSの主な症状について、私の臨床経験から考えられる神経麻痺との関係を説明します。

1 手足が動かしにくくなる

腕や脚へ向かう神経伝達が低下すると、脳から筋肉への指令が十分に伝わらなくなります。その結果、手足の動きが不自由になると私は考えています。

2 呂律がまわらなくなる

胸鎖乳突筋、甲状舌骨筋、顎舌骨筋など、発声や嚥下に関わる筋肉の神経伝達が低下することで、呂律がまわりにくくなると考えています。

3 力が入らなくなる

力が入らない症状は、神経伝達の低下だけではなく、筋肉の強い硬直によって本来の筋力を十分に発揮できなくなっている状態であると考えています。

4 筋肉が痙攣する

筋肉が強く硬直していると、脳からの運動指令に素早く対応することができません。

その結果、筋肉の動きに時間差(タイムラグ)が生じ、痙攣や震えとして現れるものと考えています。

筋肉の硬直を改善し、神経伝達を正常化することで、この症状は

改善へ向かう可能性があります。

5 下がり首

下がり首は、腕へ向かう神経伝達の低下に加え、僧帽筋や棘上筋など頸部を支える筋肉の神経伝達が低下することによって起こると私は考えています。

 

おわりに

私は長年にわたり臨床の現場で施術を続ける中で、神経麻痺を引き起こす部位と、その改善方法を探究してきました。

そして、その方法を用いることで、ALSをはじめとするさまざまな難治性疾患の改善に取り組んできました。

本書で紹介した内容は、私自身が長年の臨床経験を積み重ねる中で得た知見をまとめたものです。

これらの技術や考え方が後世に受け継がれ、多くの施術家の役に立ち、一人でも多くの患者さんの力となることを心から願っています。

 

2026/07/01

眞々田昭司

 

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、厚生労働省が指定する難病の一つです。人工呼吸器を使用しない場合の平均余命は約2~5年といわれ、現在でも根本的な治療法が確立されていない難病として知られています。

・主な初期症状には、次のようなものがあります。

・手足が動かしにくくなる。

・呂律がまわらなくなる。

・力が入らなくなる。

・筋肉が痙攣する。

・首が前方へ垂れる「下がり首」が現れる。

私はこれまでに3名のALS患者を施術する機会を得ました。そのうち2名は病状の改善がみられ、いわゆる寛解といわれる状態に至りました。

こうした臨床経験を重ねる中で、私はALSの症状は筋肉の硬直と神経伝達の異常が深く関係しているのではないかと考えるようになりました。これは遺伝や事故などの外的要因だけでは説明できず、日常の姿勢や筋肉の使い方が大きく影響しているというのが、私自身の長年の臨床から得た結論です。

前頁のイラストに示した姿勢は、日常生活の中でよく見かけるため、多くの人が悪い姿勢とは気付きません。しかし、私はこの姿勢がさまざまな不調を生み出す重要な要因の一つであると考えています。

まず、身体が後方へ反った姿勢になると、脊柱起立筋、大腿直筋、ヒラメ筋、内側広筋が常に緊張し、硬直しやすくなります。

さらに、身体が反った状態のまま頭部を支えようとすると、頭部の重みで後ろに倒れてしまいます。それで首を前に曲げてバランスを保とうとします。そのために胸鎖乳突筋、頭板状筋、棘上筋、菱形腱橋(りょうけいけんきょう)が硬直していきます。

加えて胸筋も硬直することで、胸郭の動きが制限され、呼吸が浅くなります。その結果、呼吸困難や嚥下困難などの症状が徐々に現れるようになります。

このように、一見何気ない姿勢であっても、長期間続けば筋肉の硬直は次第に強くなります。私は、その硬直した筋肉が神経や血流に影響を及ぼし、さまざまな神経障害を引き起こしていくと考えています。そして、その積み重ねがALSにみられるような症状を形成する一因になっているのではないかと捉えています。

本章では、私が長年の臨床経験を通して見出した神経麻痺の原因と、その改善方法について順を追って説明していきます。

 

神経麻痺

日常生活の中には、自分では気付かないうちに神経が麻痺している人が少なくありません。

「無神経な人」という言葉がありますが、ここでいう神経麻痺とは性格のことではなく、身体の神経伝達が正常に働いていない状態を指します。

私は施術中に患者さんの腕や脚に触れていても、まったく反応を示さない方に何度も出会ってきました。

ある患者さんは施術中に、

「先生、何をしているのですか?時間がもったいないので施術してください。」

と言われました。

しかし実際には、その方の腕や脚に触れながら施術を行っていました。

つまり、その方は触れられているという感覚、すなわち触覚神経の働きが低下していたのです。

また、その患者さんはアトピー性皮膚炎を患っており、特に手足の触覚神経の反応が鈍くなっていました。そのため、触れられていても感覚として認識できなかったのです。

このような例は決して珍しくありません。

軽度の神経麻痺では、触られていることは分かっても、「痛み」をほとんど感じない方が数多くいます。

そのような方に少し強めの圧を加えても、

「先生、何をしているのですか。」

と不思議そうな表情をされることがあります。

触覚は残っていても、痛覚だけが正常に働いていない状態です。

このような方々の筋肉に触れると、共通して筋肉全体が強く締ま

り、硬く硬直しています。

この硬直した筋肉を柔らかくしていく施術は容易ではなく、多くの時間と根気を必要とします。

しかし私は長年の施術の中で、一つの重要なことに気付きました。神経反応を回復させることができると、それまで頑固に硬直していた筋肉が、まるで嘘のように柔らかくなっていくのです。

この経験から私は、筋肉の硬直を改善するためには、単に筋肉をほぐすだけでは十分ではなく、神経伝達を正常な状態へ導くことが極めて重要であると考えるようになりました。

 

神経麻痺と血流阻害はどのようにしてつくられるのか

現在の医学では、神経麻痺は脳や神経そのものの異常によって起こると考えられています。

一方、私が長年の臨床経験から得た結論は、筋肉の強い硬直が神経を圧迫し、その結果として神経伝達が障害される場合があるということです。

この考え方を理解しやすい例として、「正座」があります。

長時間正座をすると、最初は脚にしびれを感じます。

さらに時間が経つと痛みが現れます。

しかし、正座を何日も繰り返していると、しびれや痛みを感じにくくなることがあります。

これを「正座に慣れた」「訓練の成果だ」と考える人もいます。

しかし私は、それだけでは説明できないと考えています。

実際に、長時間平気で正座ができる方の脚をつねってみても、「痛い」と感じないことがあります。

これは痛みに強くなったのではなく、神経の働きが鈍くなった結果であると私は考えています。

筋肉が長時間緊張し続けることで硬直し、その硬直した筋肉が神経を圧迫します。

その結果、神経から脳への情報伝達が妨げられ、感覚が低下してしまうのです。

神経からの情報が脳へ十分に届かなければ、脳はその部位の状態を正確に把握することができません。

また、脳から筋肉や各器官への正常な指令も伝わりにくくなります。

私は、このような神経伝達の低下が続くことで、身体にはさまざまな不具合が生じ、多くの症状へと発展していくものと考えています。

 

神経を麻痺させている部位

長年の臨床経験から、私は神経を麻痺させる原因となる部位が身体の各所に存在することを確認してきました。

その部位は、頸部をはじめ、手や腕、脚だけでなく、呼吸器や消化器などの内臓にも関係しています。

これらの部位の神経伝達を正常な状態へ導くことで、筋肉の硬直が緩み、血液循環も改善していきます。

以下に、私が臨床で行っている神経反応のつなげ方について説明

します。

 

腕・手の神経の通し方

腕の神経を通す施術では、まず胸鎖乳突筋の中央部から始めます。

神経が麻痺している方でも、この部位だけは痛みを感じることが多く、神経反応を回復させるための重要な出発点となります。

まず、この部位を軽く圧します。すると痛みを感じますので、その痛みを確認しながら少しずつ下方へ神経反応を広げていきます。

途中で痛みを感じない部分があれば、その部位の筋肉の硬直を丁寧に解し、痛みが現れるまで神経反応を回復させます。

さらに、その痛みが消失するまで十分に筋肉を緩めてから、再び下方へ進みます。

このとき、決して強い力で押してはいけません。筋肉を傷めないよう、軽い圧で神経反応をつないでいくことが重要です。

胸鎖乳突筋の起始部まで神経反応を広げたら、肩へと移り、さらに腕全体へ神経反応をつないでいきます。

腕関節まで到達したら、その部位の深層にある棘上筋の神経反応を確認します。

神経反応が十分に広がったことを確認した後、手首の支帯へ移り、さらに手掌側(屈筋群)から手背側(伸筋群)へと神経反応を広げます。

最後に、それぞれの指先まで神経反応をつないでいくことで、腕全体の神経伝達は正常に近づいていきます。

神経伝達が改善すると、これまで硬直していた筋肉は徐々に柔らかくなり、血液循環も良好になります。

さらに腕全体の筋肉を丁寧に解すことで、より安定した状態を維持することができます。

次に反対側の腕を確認します。

片側の神経伝達が改善すると、反対側も神経反応が向上していることが少なくありません。

不足している部分だけを補正するように施術すると、効率よく神経伝達を正常化することができます。

 

脚の神経の通し方

脚の神経を通す施術も、基本となる考え方は腕と同じです。

まず腕の神経伝達を十分に改善した後、胸鎖乳突筋起始部の裾側、鎖骨の下方深部にある脚の神経へつながるポイントを確認します。

この部位は圧すると身体を縮めたくなるほど強い痛みを伴うことがあります。その痛みが消えるまで丁寧に筋肉を解していきます。

続いて脚の付け根へ移ります。

屈筋側の筋肉を圧して痛みを確認した後、大腿部では内側広筋から始め、直筋、外側広筋へと神経反応を広げながら筋肉を解していきます。

大腿部が終了したら膝窩へ進み、さらに下腿ではヒラメ筋からアキレス腱へと神経反応を広げます。

続いて長趾伸筋、短母趾伸筋へ進み、足関節支帯、内果、外果へと施術を行います。

最後に足背部の腱や筋肉を解しながら神経反応を足趾まで広げていきます。

片側の脚が終了すると、もう一方の脚も神経反応が改善していることが多くあります。

その状態を確認しながら不足している部分のみ補正していくことが大切です。

最後に脚全体の筋肉を十分に解し、血液循環を改善して施術を終えます。

 

胸の神経の通し方

胸部の神経を通すポイントは、脚の神経のポイントから指一本ほど上方、身体の中心寄りにあります。

この部位も脚と同様に、痛みが消えるまで筋肉の硬直を丁寧に解していきます。

神経反応が正常になると、肋間筋をはじめとする呼吸筋の働きが改善し、胸郭の動きが滑らかになります。その結果、呼吸が楽になり、呼吸機能の改善が期待できます。

また、腹直筋などの緊張も緩和されるため、胸部や腹部にかかる負担が軽減されます。さらに、逆流性食道炎などに関係する筋肉の神経反応も改善し、それらの筋肉を十分に解して血液循環を促すことで、症状の改善につながると私は考えています。

 

肝臓・大腸などの神経の通し方

肝臓や大腸へつながる神経のポイントは、右側の脚の神経ポイン

トから右方向にあります。

この部位の神経反応が改善すると、肝臓や大腸に関係する筋肉の緊張が緩み、それぞれの臓器が本来の働きを取り戻しやすくなります。

その後、周囲の硬直した筋肉を十分に解すことで血液循環が改善され、臓器への負担も軽減されていきます。

 

胃・膵臓・脾臓などの神経の通し方

胃、膵臓、脾臓へつながる神経のポイントは、左側の脚の神経ポイントからやや左寄りにあります。

この部位の神経反応を正常化すると、胃、膵臓、脾臓へ神経伝達が届きやすくなり、それぞれの臓器に関係する筋肉が徐々に緩んできます。

さらに、その周囲の硬直した筋肉を丁寧に解すことで血液循環が改善され、これらの臓器の働きも向上していくものと私は考えています。

 

頸部と顔面の神経の通し方

頸部と顔面の神経も、出発点は胸鎖乳突筋中央部にあります。

この部位から頭部に向かって神経反応を確認しながら、胸鎖乳突筋停止部まで丁寧につないでいきます。

その後、耳下部、咬筋、眼輪筋、皺眉筋、前頭筋へと順に神経反応を広げていきます

。顔面にはさらに多くの神経反応のポイントが存在しますが、それ

らをすべて説明すると非常に煩雑になるため、本書では主要な部位にとどめ、詳細については割愛します。

 

ALSの症状と神経麻痺の分析

ここで、冒頭に述べたALSの主な症状について、私の臨床経験から考えられる神経麻痺との関係を説明します。

1 手足が動かしにくくなる

腕や脚へ向かう神経伝達が低下すると、脳から筋肉への指令が十分に伝わらなくなります。その結果、手足の動きが不自由になると私は考えています。

2 呂律がまわらなくなる

胸鎖乳突筋、甲状舌骨筋、顎舌骨筋など、発声や嚥下に関わる筋肉の神経伝達が低下することで、呂律がまわりにくくなると考えています。

3 力が入らなくなる

力が入らない症状は、神経伝達の低下だけではなく、筋肉の強い硬直によって本来の筋力を十分に発揮できなくなっている状態であると考えています。

4 筋肉が痙攣する

筋肉が強く硬直していると、脳からの運動指令に素早く対応することができません。

その結果、筋肉の動きに時間差(タイムラグ)が生じ、痙攣や震えとして現れるものと考えています。

筋肉の硬直を改善し、神経伝達を正常化することで、この症状は

改善へ向かう可能性があります。

5 下がり首

下がり首は、腕へ向かう神経伝達の低下に加え、僧帽筋や棘上筋など頸部を支える筋肉の神経伝達が低下することによって起こると私は考えています。

 

おわりに

私は長年にわたり臨床の現場で施術を続ける中で、神経麻痺を引き起こす部位と、その改善方法を探究してきました。

そして、その方法を用いることで、ALSをはじめとするさまざまな難治性疾患の改善に取り組んできました。

本書で紹介した内容は、私自身が長年の臨床経験を積み重ねる中で得た知見をまとめたものです。

これらの技術や考え方が後世に受け継がれ、多くの施術家の役に立ち、一人でも多くの患者さんの力となることを心から願っています。

 

2026/07/01

眞々田昭司